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大阪高等裁判所 昭和62年(行コ)21号 判決

昭和六二年(行コ)第二〇号事件控訴人(第一審・第二二号事件被告)

京都市建築審査会

右代表者会長

藤原元典

右訴訟代理人弁護士

納富義光

昭和六二年(行コ)第二〇号事件控訴人(第一審・第一九号事件被告)

京都市開発審査会

右代表者会長

貝原栄

昭和六二年(行コ)第二一号事件控訴人(第一審・第一九号第二二号両事件訴訟参加人1)

前田武彦

外二〇名

右訴訟参加人ら二一名訴訟代理人弁護士

村井豊明

飯田昭

荒川英幸

浅野則明

中島晃

中村和雄

尾藤廣喜

山崎浩一

小川達雄

湖海信成

安保嘉博

同訴訟復代理人弁護士

籠橋隆明

昭和六二年(行コ)第二〇号事件被控訴人、昭和六二年(行コ)第二一号事件被控訴人(第一審・第一九号、第二二号事件原告)

大同建設株式会社

右代表者代表取締役

小森保彦

右訴訟代理人弁護士

石川良一

佐賀小里

佐賀千美

主文

控訴人京都市建築審査会、同京都市開発審査会の本件控訴を棄却する。

控訴人前田武彦ほか二〇名(第一審訴訟参加人ら)の本件控訴を却下する。

控訴費用は、控訴人京都市建築審査会、同京都市開発審査会と被控訴人との間に生じた費用は同控訴人らの負担とし、控訴人前田武彦ほか二〇名(第一審訴訟参加人ら)と被控訴人との間に生じた費用は同控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  昭和六二年(行コ)第二〇号事件控訴人京都市建築審査会、同京都市開発審査会

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  控訴費用は被控訴人の負担とする。

との判決

二  昭和六二年(行コ)第二一号事件控訴人前田武彦ほか二〇名(第一審訴訟参加人ら)(以下単に「訴訟参加人ら」という。)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決

三  被控訴人

昭和六二年(行コ)第二〇号事件につき

1  控訴人らの本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

との判決

昭和六二年(行コ)第二一号事件につき

(本案前の答弁)

1  訴訟参加人らの本件控訴を却下する。

2  控訴費用は訴訟参加人らの負担とする。

との判決

(本案に対する答弁)

1  訴訟参加人らの本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は訴訟参加人らの負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、それをここに引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決七枚目裏一行目〈編注・本誌六三四号八一頁一段九行目〉の「本件開発許可不要証明書」の次に「又は本件証明書」を加え、同八枚目表九行目〈同頁二段一五行目〉の「別紙」を「原判決添付の「被告開発審査会の裁決」」に、その一〇行目〈同段一七行目〉の「昭和六〇年一一月六日」を「昭和六一年一月二七日」に、同八枚目裏三行目〈同段二四行目〉から四行目の「別紙」を「原判決添付の「被告建築審査会の裁決」」に、同一八枚目裏一行目〈八三頁四段五行目〉の「開発」を「本件建築が開発行為」に、同一九枚目裏末行〈八四頁一段一行目〉の「の事実用上」を「に事実上の」に、同行の「受認」を「受忍」に各改め、同二〇枚目表一行目〈同段一九行目〉の「開発」の次に「許可」を、その五行目〈同段二四行目〉の「被告」の次に「開発審査会」を各加え、その八行目から末行まで〈同頁一、二段〉の各「開発不要証明」をいずれも「開発許可不要証明書」に改める。

2  同三二枚目表五行目〈八六頁四段二行目〉の「同被告の裁決二〇頁」を「原判決添付の「被告開発審査会の裁決」の第1の3の(2)」に、その七行目〈同段二三行目〉の「同被告の裁決二〇頁3」を「同「裁決」の第1の3の(1)(2)」に、その九行目〈同段二五行目〉の「同被告の裁決二一頁4」を「同「裁決」の第1の4」に、その末行〈同段二七行目〉の「同被告裁決二〇頁2」を「同「裁決」の第1の2」に、同三二枚目裏二行目〈同段二九行目〉の「同被告の裁決二三頁第二」を「同「裁決」の第2の(1)ないし(3)」に、その三行目〈同段三一行目〉の「本件裁決」を「本件開発許可不要証明書取消裁決」に、同三三枚目表四行目〈八七頁五行目〉の「被告建築審査会の裁決五頁第一」を「原判決添付の「被告建築審査会の裁決」の第1」に、その六行目〈同段九行目〉の「同被告の裁決七頁第二」を「同「裁決」の第2」に、その九行目から一〇行目〈同段一四行目〉の「一七頁」を「第一の」に各改める。

3  同三四枚目表六行目〈同頁二段六行目〉の「て、」を「てなす、」に、同三五枚目表四行目〈同頁三段一行目〉の「実態的判断」を「実体的判断」に、同三七枚目表二行目〈同頁四段二九行目〉の「不要証明」を「許可不要証明書」に各改める。

二  被控訴人の本案前の主張

訴訟参加人らは、本件各裁決の取消訴訟について当事者適格がなく、独自の控訴権を有しないから、訴訟参加人らの本件控訴は却下されるべきである。

本件各裁決は、訴訟参加人らに対して誤って審査請求人適格を認め、原審はそれを前提として訴訟参加人らに訴訟参加を許したが、訴訟参加人らは、原審及び控訴審において当事者適格が与えられないものである。訴訟参加人らに独自の控訴権を認めると、第一審・第一九号事件については本来確定すべき判決が不当に確定しない結果となる。

三  訴訟参加人らの反論

1  行政事件訴訟法二二条一項の参加決定に対し、当事者は不服申立ができないから、被控訴人の主張は失当である。

2  仮に不服申立ができるとしても、被控訴人は、参加決定についてなんらの異議も述べずに弁論を行っており、異議権を喪失したものというべきである。

3  訴訟参加人らは、参加人適格を有し、かつ、独自の控訴権を有するものである。参加適格と審査請求適格とは別個の問題である。なお、行政事件訴訟法二二条四項は民事訴訟法六二条を準用しているので、訴訟参加人らが上訴すれば、控訴人開発審査会についても判決の確定が遮断されることは当然のことである。

四  控訴人京都市建築審査会の主張

1  開発審査会の審査権限について

(一) 本件開発許可不要証明書発行、交付は都市計画法二九条本文に基づくものである。けだし、開発許可権者である知事又は市長が同法条により開発許可又は開発不許可の処分をする場合には、それに先立ち、まず許可申請された予定建築物の敷地が果たして開発行為を必要とするものかどうか、あるいは開発行為にあたるか否か判断することになり、また、都市計画法施行規則六〇条に基づく請求があったとき、その土地が開発行為を伴わず、開発許可を必要としないと判断した場合には、開発許可不要証明書を交付することになっているからである。

(二) 本件開発許可不要証明書は、公権力の行使によって作成、交付されたものであるから、準法律行為的行政行為たる確認行為である。そうでないとしても、右証明書の交付は少なくとも行政不服審査法一条の「公権力の行使に当たる行為」に該当するものである。

(三) よって、京都市開発審査会は、本件開発許可不要証明書に関し、審査権限を有するものである。

2  訴訟参加人らの審査請求人適格について

原判決は、不当景品類及び不当表示防止法に関する最高裁判決を援用するが、同法は行政不服審査法の適用を除外している(同法一一条)から、本件に適切な事例とはいえず、誤りである。

都市計画法の立法目的である都市行政の適正化、行政不服審査法四条の立法趣旨を勘案すると、受忍限度をこえる近隣住民の被侵害利益を救済すべきであり、本件の場合には、既に建築確認がなされ、いつでも建築に着手しうる状態にあるから、訴訟参加人らは必然的にその利益を侵害されるおそれのある者に該当する。

3  原判決が、建築主事に都市計画法二九条の規定への適合性について実体的審査権限と義務を認めたのは誤りである。建築主事は、現地調査権限等を有せず、その審査義務も形式的外形的審査にとどまるものである。

建築確認申請書への開発行為許可書の添付は申請書の受理要件であり、本件開発許可不要証明書の添付も又、建築確認申請書の受理要件と解すべきである。したがって、本件開発許可不要証明書の取消しにより、本件建築確認申請書は受理要件を欠くことになるから、本件建築確認も無効となる。

本件開発許可不要証明書の取消原因は、予定建築物の建築には土地の区画の変更があり、市長の開発許可を要するものであるのに、その許可を得ていないという実体的理由によるものである。したがって、本件確認処分の取消しは手続的瑕疵によるという単純なものではない。

4  本件予定建築物により土地の区画の変更が生ずることは明らかである。本件建築予定建物は京都市建設局開発指導課作成の「しおり」の例示に合致するように極めて巧妙に設計されているにすぎない。原判決にはこの点についての判断がない。

五  訴訟参加人らの主張

1  開発審査会の審査権限について

(一) 開発許可処分及び開発不許可処分の権限が知事又は市長にあることは明らかであるから(都市計画法二九条)、その前提となる開発行為(同法四条一二項)にあたるか否かの判断権限も開発許可権者である知事または市長に属するものと解すべきである。そして、この判断は、同法二九条ただし書各号の除外事由に該当するか否かの判断(以下「例外的許可不要事由該当性判断」という。)と同様、一義的なものとはいえず、個別・具体的になされる裁量的なものであり、また、これにより実質的には許可制度による制約と同じ制約を受けることになる。ちなみに、開発行為等の規制権限が開発許可権者である知事又は市長にあることは都市計画法第三章第一節の規定に徴し明らかである。右のような知事または市長の裁量的判断の適否を審査するために開発審査会がある。

(二) 開発許可・不許可の有無の判断は確認的なものであるから、建築主事が建築確認の際に審査すべき事項であるが、開発行為にあたるか否かの判断は、前者とは異質なものであって、前記のとおり開発許可権者である知事又は市長の権限に属するものである。すなわち、建築主事が建築確認の際に審査すべき事項は、開発許可・不許可の有無、開発許可権者による開発行為にあたるか否かの判断の有無及び開発許可権者による例外的許可不要事由該当性判断の有無という形式的、外形的なものにとどまり、したがって、建築主事は本件開発許可不要証明書の内容に拘束される。この点について、原判決は開発行為にあたるか否かの判断は建築主事の審査事項であるとしたが、都市計画法の解釈を誤るものである。

(三) 開発許可不要証明書交付行為が行政処分に該当することは原審において述べたとおりであるから、都市計画法二九条に基づく開発許可権者の処分の適否を審査する権限を有する開発審査会は、当然本件開発許可不要証明書の交付行為の適否について審査する権限を有するものである。

2  仮に、原判決認定のように建築主事に開発行為該当性の判断権限があるとしても、建築確認の段階において建築主事は当該建築計画が開発行為にあたるか否かを実質的に判断しなければならず、また、建築計画に関する最終的審査機関である建築審査会は建築主事の右判断の適否について審査(実質的判断)しなければならない。しかるところ、本件建築計画が開発行為に該当することは原審において述べたとおりであるから、建築審査会は、本件建築計画が開発行為に該当するにもかかわらず、建築主事がその判断を誤り、開発行為に該当しないものとして、その許可がないまま建築確認をしたことを理由として本件建築確認を取り消すべきであった、ということになる。そうすると、本件建築確認取消裁決は、取消理由は異なるが、その結論は動かし難いものであるから、これを維持すべきである。

3  審査請求人適格について

原判決は訴訟参加人らの審査請求人適格を否定したが、原審において述べたとおり、訴訟参加人らはその適格を有するものである。この点についての主張を補足する。

本件開発、建築工事及び予定建築物により、訴訟参加人らは日照、通風妨害、騒音、振動、風害、電波障害、プライバシー侵害、水圧低下等重大な被害を受けるが、このような利益の侵害については憲法一三条、二五条、民法七〇九条の規定により保護されていることはもちろん、都市計画法においても保護されているものである。本件事案において、開発許可手続を経ると、一定規模の公園の設置、消防自動車等の通行のための主要道路の設置が義務づけられ、これにより建築物の縮小を余儀なくされ、また、給水施設の整備等も義務づけられる。右のような義務が履践されれば訴訟参加人らの受ける被害も軽減される。したがって、開発許可手続を経るか否かについて訴訟参加人らは重大な利害を有するものである。ちなみに、本件開発が開発許可基準等に違反していること(開発区域内の道路基準及び接続先道路の問題、公園空地基準違反、排水施設及び給水施設基準違反)により、訴訟参加人らが火災の際の類焼の危険、煙、有毒ガスによる被害、ガス爆発の被害、交通渋滞、違法駐車、交通事故、排気ガス、騒音、振動及び溢水等のためにその生命、身体、健康及び所有財産を絶えず脅かされることは明らかである。

なお、いったん開発許可不要証明書が交付されると、前記のとおり建築主事はこれに拘束され、これを前提にして建築確認を行うから、右証明書の交付自体により訴訟参加人らは前記被害を受けるおそれがある。

仮に、原判決認定のように建築主事に開発行為該当性の判断権限があるとしても、建築確認処分の取消訴訟については、付近住民に原告適格を肯定するのが定着した判例の立場であり、本件建物建築により訴訟参加人ら各人が受ける個別的被害は原審において述べたとおり(原判決は三七枚目表八行目から四九枚目裏一〇行目まで)〈編注・八八頁一段から九〇頁三段まで〉であるから、前同様の理由により、訴訟参加人らは本件建築確認について審査請求人適格を有するものである。

4  本件建築の開発行為該当性について

(一) 本件建築計画が土地の区画の変更をもたらすことは原審において述べたとおりであるが、次に述べるような土地利用形態の急激な変更は「土地の形質の変更」に該当し、開発行為にあたるものである。すなわち、

本件土地は古くは材木置場や畑として利用され、順次仮庁舎の敷地、自動車置場、高校のグラウンドとして利用されてきたもので、過去数十年間宅地として利用されることはなかった。このような土地利用の状況のもとにおいては、一六九戸の大型分譲マンションを建てることにより、雨水、汚水等の排水、流水状況に変化が生じ、思いがけない災害発生の危険が生ずるため、樹木や表土の保全に一定の規制をすることが不可欠であり、そのため、土地の利用形態が一変することが明らかであるから、右マンションの建築自体、土地の形質の変更をもたらすものといわなければならない。

(二) 原判決は、「建築物の建築自体は、当然には、その敷地につき区画の変更が生じるとすることはできない」としたが、その理由については事実誤認がある。すべての建築行為が開発行為とされないで、土地の区画又は形質の変更を伴う建築行為に限定されたのは、人口増に直接結びつかない住宅建設以外の建築行為(例えば倉庫の建築)は開発行為の対象にする必要がないからである。

(三) 被控訴人は、開発規制による負担を免れるため、「しおり」(「都市計画法に基づく開発許可申請手続のしおり」)を巧みに逆手にとり、各建物の一部を接合させ、エレベーターを一基にするなどの設計により、本件建物は一棟であるとの認定を受け、本件開発許可不要証明書の交付を受けたが、これが認められると、開発不適地にマンションが乱立するのみならず、各棟を連結させて一塊の様相を呈するものであれば、五千戸のマンションを建設することさえでき、無限に大きなものが開発規制もなしにできることになり不合理である。区画の数は、当該区画上に建築される住宅戸数(世帯数)に対するもので、住宅を建築するための区画とは、一世帯を収容するに足る住宅と住宅との間の区分のことであって、住宅数が複数ならば常に区画も複数である。中高層共同住宅マンションにおいても、住戸が複数であれば区画も複数存在するというべきである。このように解すれば、都市計画法の定める開発規制に対する脱法行為を防止し、同法の目的を達成することができる。

仮に、土地の区画の変更の有無は視覚的、物理的状況により判断すべきで、建物の棟数により区画数を決すべきものであるとしても、建物の棟数については、視覚的、物理的な観点からこれをなすべきであり、用途上一棟か二棟かというような全く異質な概念を持ち込むことは許されない。この観点からみると、各棟を形式的に連結した本件建物は明らかに四棟であり、この四棟により敷地は少なくとも西棟の西側部分、各棟の北側部分、東棟の東側部分及び各棟に囲まれた中庭部分の四つに区分けされている。控訴人開発審査会は右のように判断したが、このように見るのが社会常識であり、社会通念でもある。

また、原判決認定のように、排他的占有の個数又は視覚的、物理的な観点から区画の数を判断し、一戸又は一棟の建物ごとに敷地の占有が一個であり一区画であるとしても、本件のように専用庭等のある中高層共同住宅マンションの場合には、一棟であるからといって当然区画も一個であるとはいえない。なぜなら、本件建物の西棟西側には専用庭が予定されているが、その部分は住戸所有者が排他的に占有することになり、複数の排他的占有部分、すなわち複数の区画が生ずることが明らかであるし、B棟の一、二階部分は店舗として分譲使用されるが、店舗部分は独立一戸建住宅の場合と同様に他の土地と区分けされているからである。この点につき、原判決が単純に敷地は共同利用されるとしたのは誤りである。

六  被控訴人の主張

1  本件開発許可不要証明書の法的根拠について

都市計画法二九条及び同施行規則六〇条を本件開発許可不要証明書発行の根拠とするのは不当である。行政法規は立法府が行政権をコントロールするために制定されたものであるから、行政権の権限を広げる拡張解釈は許されない。明文に従い、厳格に解釈すべきである。

2  開発審査会の審査権限について

開発審査会の審査権限は都市計画法五〇条により限定されており、本件開発許可不要証明書の発行は同法二九条の処分にあたらないから、右証明書発行について開発審査会の審査権限は及ばない。

なお、本件開発許可不要証明書の発行・交付は、国民に対し具体的権利義務を発生させ、又は国民の権利義務に直接関係し、その法律上の利益を左右するものではないから、行政不服審査法一条にいう「行政庁の処分」にもあたらない。

3  審査請求人適格について

本件建物は建築基準法に合致したものであり、訴訟参加人ら主張のような被害の発生はなく、仮にあるとしても、それは受忍限度内のものである。

4  建築主事の権限について

建築基準法六条三項によれば、建築主事は建築確認処分に当たり、その建築物の敷地・構造及び建築設備に関する法律などの規定に適合するかどうかの審査をしなければならないことになっているので、開発行為にあたるか否かの判断は最終的には建築主事にある。原審におけるこの点についての被控訴人の主張は右のとおり訂正する。

5  開発行為の意義について

都市計画法四条一二項の「土地の区画の変更」とは、現況(物理的状況)における土地の区画の変更である。

本件建物は、渡り廊下などによる接続ではなく、建物本体がつながっている。また、共同住宅部分は一つに連なり、エレベーターを共用し、居住者らは駐車場、集会所、ごみ置場、ポンプ場及び浄化槽の建物を共同で利用し、通路、庭園も共用である。なお、本件建物敷地はすべて建物区分所有者全員の共有であり、専用庭も専用使用権をもつ者が所有するものではないし、各専用庭の境のネットフェンスは簡単に取りはずしができ、倉庫・物干など工作物の設置もできないことになっており、敷地の共同利用の形態に変化をもたせたにすぎず、独立住宅の庭と同様のものとはいえず、独立排他的なものではない。以上のとおり、専用庭は仮設的なもので、共同生活による制約を受けた庭であって、その仕切りは社会通念上、土地の仕切りとは認め難いものである。したがって、土地について仕切りが生じたとはいえず、物理的状況における土地の区画の変更もない。原判決は、本件建物について、単に共同住宅部分が連結していることをもって一塊のものとしたわけではなく、共同利用関係を考慮し、有機的一体関係にあることにかんがみ、一塊の建物にあたるとしたものであって、常識的で妥当な認定である。この点に関する訴訟参加人らの非難はあたらない。

ちなみに、京都市建設局開発指導課は、昭和六二年四月に、「しおり」中の「土地区画の変更」についての記載を次のように改めたが、これによれば、本件建物建築は土地区画の変更にあたらないことが明らかである。

「1 土地区画の変更

建築物又は特定工作物の土地利用形態としての土地の区画(土地の物理的状況の区分)の変更

2 該当事例

(1) 道路・水路の新設・変更・廃止により土地の物理的状況の区分を変更する場合

(2) (1)に該当しない場合であって、次のような場合

ア 複数の建築物(用途上不可分の関係にある複数の建築物は一つの建築物とする。以下同じ。)を除却し、そこに一つの建築物を建築する場合

イ 一つの建築物を除却し、そこに複数の建築物を建てる場合

ウ 複数の建築物を除却し、そこに従前と土地の利用の範囲を異にする複数の建築物を建築する場合」

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一昭和六二年(行コ)第二一号事件について

1  被控訴人の本案前の主張について

被控訴人は、訴訟参加人らは本件各裁決の取消訴訟について当事者適格がなく、独自の控訴権を有しないからその控訴申立ては却下されるべきである旨主張するので、まずこの点について判断する。

被控訴人の右主張は、訴訟参加人らに当事者適格がないことを前提とするものであるが、本件記録によれば、本件第一審裁判所は、行政事件訴訟法二二条一項の規定により、昭和六一年一一月一四日、本件訴訟参加人1ないし21の者に対し、第一審第一九号事件につき被告(京都市開発審査会)のため参加をさせ、本件訴訟参加人1ないし4の者に対し、第一審第二二号事件につき被告(京都市建築審査会)のため参加をさせる旨の各決定をしたことが認められる。同裁判所が右のとおりの各決定をしたのは、その理由に記載しているとおり、訴訟参加人らの行政不服申立てによって得られた開発許可不要証明書の取消裁決及び建築確認の取消裁決が、被控訴人の本件訴えの提起により更に取り消されることになれば、訴訟参加人らは、その訴訟の結果により権利を害される第三者に該当することになるものと判断したからであって、右参加適格は、審査請求人適格又は裁決取消訴訟における当事者適格とはその根拠を異にするものである。そして右各決定に対しては、当事者から不服申立ての道はなく、当裁判所も右各決定が不当であるとは認め難いから、訴訟参加人らは、同条四項、民事訴訟法六二条の規定により、必要的共同訴訟における共同訴訟人に準ずる地位、すなわち共同訴訟的補助参加人として取り扱われることになり、その参加人は被参加人の訴訟行為と抵触する訴訟行為をも有効にすることができるから、控訴権も独自に有するものと解するのが相当である。したがって、被控訴人の右主張は失当というべきである。

2  二重控訴について

本件記録によれば、原審判決に対し、昭和六二年四月一日、控訴人開発審査会及び同建築審査会から適法な控訴の提起があり、同月二日訴訟参加人らから控訴の提起があったことが認められる。訴訟参加人らは、前記のとおり控訴人開発審査会及び同建築審査会とは必要的共同訴訟における共同訴訟人に準ずる地位にあり、控訴人開発審査会及び同建築審査会の右控訴により、訴訟参加人らについてもその確定は遮断され、当然移審の効果が生ずることとなるから、改めて控訴をする必要はなく、したがって、その控訴は二重控訴として不適法というべきであり、却下を免れない。

なお、控訴人開発審査会は、同月一三日右控訴の取下書を提出したが、右取下げにつき、共同訴訟的補助参加人たる本件訴訟参加人らの同意のないことは明らかであるから、控訴取下の効力はなく、依然として控訴人としての地位を有するものというべきである。

二昭和六二年(行コ)第二〇号事件について

当裁判所も、被控訴人の控訴人らに対する各請求はいずれも理由があると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決理由説示と同一であるから、それをここに引用する。

1  原判決七八枚目表末行〈編注・九七頁二段二七行目〉の「敷地」からその裏二行目〈同段三〇行目〉の「その」までを「敷地(以下「本件土地」という。)は、京都市右京区嵯峨朝日町二番三号に所在し、その面積は7646.94平方メートル、その形状は原判決添付の別紙第1及び第2図面に示すとおりである。本件土地は、昭和五八年九月二二日、二番五号ほか一一筆を合筆して右面積となったものであるが、右合筆土地は、いずれも昭和四七年以前から地目は「宅地」となっていた。本件土地の」に、同七九枚目表末行〈同頁三段二五行目〉からその裏一行目〈同段二六行目〉にかけての「被告開発審査会の裁決書別紙」を「原判決添付の別紙第1及び第2」に、その行〈同段二六行目〉の「同裁決書別紙第二図面」を「同別紙第2図面」に、その五行目〈同段三一行目〉の「同裁決書別紙第一図面」を「同別紙第1図面」に各改める。

2  同八四枚目裏六行目〈九八頁四段二三行目〉の「訴訟参加人ら」からその八行目〈同段二九行目〉の「あろうか。」までを削り、同八五枚目表一行目〈九九頁一段一行目〉の「当裁判所における」を「『土地の形質の変更』とは、土地について切り土、盛り土、整地工事等の物理的な行為を加えて土地の形や性状を変えることをいうが、建築物の建築行為自体と不可分一体の工事と認められる土地の掘削及び基礎打ち等の行為は開発行為には該当しないものと解すべきところ、原審における」に改める。

3  なお、次のとおり付言する。

(一)  本件において最も重要かつ根本的な問題は、被控訴人の本件マンションの建築計画が都市計画法四条一二項の「開発行為」に該当するか否かということであるが、原判決挙示の証拠及びその認定事実によれば、原判決判示のとおり(原判決七八枚目表八行目から八五枚目表三行目まで)〈九七頁二段から九八頁一段まで〉、本件建築計画は右「開発行為」には該当しないものと認めるのが相当である。

控訴人ら(訴訟参加人らを含む。)は、本件建物の建築計画は土地利用形態に急激な変更をもたらすものであるから、本件建物の建築自体、土地の形質の変更に該当し、開発行為にあたる旨主張するが、本件土地の地目が遅くとも昭和四七年以前から「宅地」であったことを考慮すると、訴訟参加人ら主張のような土地の利用形態の変更があったからといって、都市計画法四条一二項にいう「土地の形質の変更」があったとは到底認められない。

また、訴訟参加人らは、本件建物は明らかに四棟であり、被控訴人が開発規制による負担を免れるため、「しおり」を巧みに逆手に取り各建物の一部を接合させ、エレベーターを一基にするなどの設計により一棟であるとの認定を受けたにすぎない旨主張するが、原判決認定事実によれば、本件建物を全体として見た場合、構造的、機能的には一体不可分のものとして密着しており、少なくとも一体性があると認められるから、これを一塊の建物というに妨げないものであり、これをもって都市計画法の定める開発規制に対する脱法行為であると目することはできない。

なお、訴訟参加人らは、本件建物の西棟西側に専用庭が予定されていること、B棟の一、二階部分が店舗として分譲使用されることを理由に区画が複数になる旨主張するが、本件建物敷地はすべて建物区分所有者全員の共有であること(弁論の全趣旨により認める。)に徴すると、訴訟参加人ら主張のような事実をもって直ちに土地の区画に変更があるとは認め難いから、右主張は採用に由ないものである。

(二)  訴訟参加人らは、本件建物の建築計画が開発行為に該当するものであることを前提として、建築主事がその判断を誤り、開発行為に該当するのに該当しないものとして建築確認をしたことを理由として、建築審査会は右建築確認を取り消すべきであった旨主張するが、右前提が認められない以上、右主張もまた認められない。

(三)  右のとおり、本件建築計画は、開発行為に該当しないのであるから、被控訴人が本件建物の建築確認申請に先立ち、都市計画法二九条の開発行為許可の申請をしなかったのは極めて当然であるといわなければならない。

しかし、建築主は、建築基準法六条により、その計画が「当該建築物の敷地……に関する法律」等に適合することにつき建築主事の確認を受ける必要があり、また、そのために、建築基準法施行規則一条七項は、都市計画区域内の建築にかかる確認申請については、その建築計画が都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面を申請書に添えなければならない旨定めている。

ところで、建築計画が開発行為に該当しない場合には、右二九条に適合していることを証する書面は本来不要のものであるが、その場合でも、建築主事としては、建築基準法六条に定める敷地の適法性について判断する必要があるため、都市計画の専門機関である知事又は市長の意見を聴取するとの趣旨で、開発許可不要証明書を確認申請書に添付させているものと解される。ただ、その場合の知事又は市長に対する開発許可不要証明書の交付申請の明文上の根拠が不明確であるが、都市計画法施行規則六〇条を類推適用しているものと解される。

以上の諸点を総合勘案すれば、原判決が、開発許可不要証明書の交付は都市計画法二九条に基づく処分ではなく、同法施行規則六〇条に基づく処分であり、同処分は、都市計画法五〇条掲記の不服申立事項の中には含まれていないから、開発審査会の審査権限には含まれず、これが含まれることを前提としてなされた控訴人開発審査会の開発許可不要証明書交付処分の取消裁決は違法である旨の認定判断をしたことは、相当であるというべきである。

(四)  さらに、控訴人開発審査会が本件開発許可不要証明書交付処分を取り消したことのみを理由として、控訴人建築審査会が本件建築確認の取消をしたのは違法である旨の判断を示した原判決もまた、首肯するに足るものである。

4  その他、当審における証拠を加えて検討しても、原判決の認定、判断を左右することはできないから、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由がある。

三以上のとおり、原判決は相当であって、控訴人らの本件控訴は理由がないから、民事訴訟法三八四条一項によりこれを棄却することとし、訴訟参加人らの本件控訴は不適法であるから、これを却下することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官日野原昌 裁判官大須賀欣一 裁判官大谷種臣)

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